【実は自動運転じゃない!】現役新幹線運転士が教える、『新幹線の仕組み』と『運転方法』!

 [temp id=3]

日本では新型コロナの影響が少なくなって、少しずつ日常が戻ってきている今日この頃。

みどりの窓口の予約状況を見て、年末年始の帰省で新幹線もコロナ以前の活気を取り戻しつつあり、少し安心しています

いきなりですが、皆さん新幹線はどのようにして運行されているかご存知でしょうか?

何故か分かりませんが、世間で新幹線は『自動で走行』していると思われています。。

10月下旬に、JR東日本新潟駅〜新潟新幹線車両センター間(約5km)で自動運転の試験走行が行われました

ですが、お客様を乗せる営業列車で運行している新幹線が自動運転している区間は日本のどこにもありません!

全て、私たち新幹線運転士が日々操縦しています

なので、今回は意外と知られていない「新幹線の運転方法」について紹介したいと思います!

目次

「自動運転」というイメージがついた原因

職業柄、新幹線は「運転士が運転する」ということが当たり前だと思っていました

ですが、親戚や友人から「新幹線は自動運転だから、仕事中も暇なんでしょ?」と聞かれ、世間とのギャップを感じることが多々ありました

個人的推測ですが、映画やドラマ、漫画の中で、新幹線が自動運転している様子のワンシーンだったりが印象に強く残っていることが大きな要因ではないかと思います

映画やドラマ、漫画のストーリーの設定上仕方ないのでしょうが、『鉄道の設定』が意外とメチャクチャだったりすることが多いですw

※エヴァンゲリオンの庵野秀明が総監督を務めた「シン・ゴジラ」のワンシーン

無人運転する新幹線

あとは、東京のお台場付近で走行している「ゆりかもめ」、東京ディズニーリゾートの「リゾートライン」で自動運転が導入されていることから、時速300km/hという高速で走行し、時間通り正確に目的地に着く新幹線なら、当然「自動運転」を導入しているだろうという印象が強くなったのではないかと思います

リゾートライン
ゆりかもめ

新幹線の保安システム『ATC』と『新幹線特例法』

新幹線は『ATC(自動列車制御装置)』という保安装置を使って日々安全に運行されています!

『ATC』とは、自分の列車に対する『①信号情報をレールに電流』という形で流し、その電流を『②③列車が受信、自列車の運転速度判断』し、運転席にあるモニターに信号情報が表示され、運転士はモニターを確認して運転を行います

もし、自列車の速度が『④⑤信号情報より速い場合』『自動的にブレーキ』がかかり、信号情報の速度まで自動で速度を低下させます

ATC仕組み

また、運転席のモニターに表示される信号情報は、普段よく乗る在来線で使われている『赤・青・黄』のような信号ではなく、『許容運転速度』数字で表示されます

※下の写真の場合『信号285』と呼び、『現在走行している区間は285km/hで走行しても良い』という意味になります

ATC信号

なぜこのような表示にしているのかというと、新幹線は300km/hという高速で走行しているため、在来線のように車外に設置されている色で表示する信号だと、速すぎて識別出来ず、信号の条件までに速度を落とすことが出来ないからです

ATCを使うことで様々なメリットがあります!

ATCのメリット
  • 許容速度以上になっても、自動で速度を落とすので、運転士にもしものことがあっても停止する
  • 許容運転速度が『数字』で表示されるので、信号の誤認をしにくい
  • 常に速度が運転席に表示しているので、悪天候で前が見えない状況あっても高速で走行できる

さらに、新幹線には『新幹線特例法』という法律があります!

在来線は、『線路内への立ち入り』や『置石』などの妨害行為は、比較的軽い罪で済みます

しかし、新幹線は高速走行しているため、このような妨害行為は損害や被害が大規模になる可能性が高いためを懲役刑が適用されることがあります!

つまり、『ATC』『新幹線特例法』によって、高速でかつ安全に新幹線を運行することが可能になっています!

新幹線の運転方法

新幹線の仕組みが分かったところで、具体的な運転方法について解説します!

運転に必要な情報

新幹線の運転は非常に単純で、小学校ときに習った『道のり・速さ・時間』を使用します

みはじの公式

これが分かれば極論、小学生でも新幹線を運転することが可能です!

『道のり・速さ・時間』を新幹線の情報に置き換えると、以下のようになります!

  • 道のり:駅キロ程
  • 速さ:新幹線の運転速度
  • 時間:駅間の運転時間

新幹線の駅全てに、東京駅を起点『0km』とした、その駅固有の『駅キロ程(住所みたいなもの)』が設定されています

駅間の運転時間は、時刻表に記載されている『発車時刻と到着時刻の差』のことです

ちなみに、『お客様の見る時刻表』と『運転士が使う運転用の時刻表』は、全くの別物です!

運転士の時刻表は『乗務員行路票』といい、到着・発車時刻に加えて、駅の通過時刻が15秒単位で記載されていています

運転士は、乗務員行路票に記載された時刻通りに列車の運転や、作業を行わなければいけません

行路票

では、これらを使って実際の計算方法を解説します!

新幹線は『通過パターン』『停車パターン』の2通り使い分けて運転します!

通過パターンの運転方法

自分の列車がA駅手前を速度270km/hで、定刻で走行しています

乗務員乗務票を確認したところ、A駅とB駅は通過駅で、通過時刻がA駅『10:00:00』、B駅『10:04:00』でした

両駅の駅キロ程を調べたところ、A駅『500km』B駅『520km』でした

これらの情報を元に、B駅を時刻通りに通過するためには『時速何km/h』でA〜B駅間を走行すればいいかを求めていきます!

イメージしやすいように『みはじの公式』に当てはめていきます

みはじの公式

『道のり』はA〜B駅間の距離なので。。

B駅の駅キロ程『520km』ーA駅の駅キロ程『500km』=『20』

A〜B駅の駅間の距離は『20km』となります

『時間』はA〜B駅までの運転時間なので。。

B駅通過時刻『10:04:00』ーA駅通過時刻『10:00:00』=『4』

A〜B駅の運転時間は『4分間』となります

時速を求めるので、『4÷60=約0.067時間に変換

これで『道のり』『時間』が分かったので、公式に当てはめると『速度』を求めることが出来ます!

公式

A〜B駅間は『時速300km/h』で走行すれば、B駅は定刻で通過出来ることが分かりました!

しかし、現在A駅手前を270km/hで走行しているため、A駅通過時点で300km/hまで加速しておかなければ、両駅を遅れて通過してしまうので気を付けなければいけません!

ですが、運転時間(分)をいちいち『時間』に直すのが非常に面倒だと思いますよね?

なので、こんなときは一旦『1分間進む距離』を求めます

『駅間距離20km』÷『運転時間4分間』=『5』(1分間に5km進む速度)

つまり、1分間に5km進む速度で走行すればいいわけです!

これを時速に変換すると『60×5=300km/h』となります

運転中は速度計算以外にも、モニターや確認事項が多くあるので出来るだけ整数を使ってシンプルに計算する方が多いです!

または、下の速度換算表を覚えてしまって、計算しないというのも一つの方法です!

1分毎に進む距離運転速度
1分間に1km60km/h
1分間に2km120km/h
1分間に2.5km150km/h
1分間に3km180km/h
1分間に3.5km210km/h
1分間に4km240km/h
1分間に4.5km270km/h
1分間に5km300km/h

また、列車を遅らしてしまうのは絶対NGですが、団体旅客が乗車している列車であらかじめ乗降に時間がかかることが分かっている場合は、あえて早めに走行、早着して乗降時間を増やすテクニックもあります!

停車パターンの運転方法

停車パターンの運転方法は、通過の場合と少し異なります

とある駅間で、自列車が『キロ程505km地点』を『時速280km/h』『10:00:00』に走行中、乗務員乗務票で確認したところ、次駅(駅キロ程520km)は停車駅で到着時刻『10:05:00』でした

この時、B駅を時刻通りに到着するためには『時速何km/h』で走行しなければいけないかを求めてみましょう!

『道のり(自列車からB駅までの距離)』は。。

B駅駅キロ程520km』ー『自列車キロ程505km地点』=自列車からB駅までの距離15km』となります

運転時間について注意しなくてはいけないのが、B駅には速度を落としながら進入していくことを考慮しなくてはいけません

新幹線の保安システム『ATC』は、自分の列車に対する信号情報をレールに電流という形で流し、その電流を列車が受信して、次駅までに安全に停車出来る速度を自動で計算し、信号情報を運転席のモニターに表示、駅に接近して、信号情報より速度が高い場合、自動で安全に駅に進入出来る速度まで低下させます

ATC仕組み

駅に進入する際の減速時間は、各駅によって異なりますが、概ね『2分程度』余分にとっています

なので、490km地点で運転時間が5分間ということは、減速時間『2分間』を引いておかなくてはいけません!

『B駅停車時刻10:05:00』ー『515km地点の時刻10:00:00』ー『B駅までの減速時間2分間』『運転時間3分間』

時速を求めるので、『3÷60=約0.05時間』に変換

これらを『みはじの公式』に当てはめると。。

公式

『1分間進む距離』で計算すると。。

『駅間距離15km』÷『運転時間3分間』=『1分間5km進む速度』が必要

上の速度換算表から『時速300km/h』

このため、現在280km/hで走行しているため、300km/hまで加速させないと次駅に遅れて到着してしまいます!

まとめ

今回は意外と知られていない『新幹線の仕組み』や『運転方法』について紹介しました!

新幹線は、安全な速度までの減速は自動でおこなってこれますが、それ以外は運転士の操縦によって運行しているので、完全な自動運転ではありません!

また、新幹線運転士は、運転中であっても、乗務員乗務票を確認しながら通過パターンや停車パターンを判断して運転方法を変えていく作業をしています

並行して、線路設備に異常が無いか外の景色に気を配ったり、修理可能な車両故障であれば走行中であっても処置することがあり、意外と忙しいことが多いです!

これからも、意外と知られていない新幹線運転士事情について紹介していきたいと思います!

合わせて、過去の記事も参考にしていただけると嬉しいです!

とある乗務の新幹線運転士ルーティン

新幹線運転士の給与体系と休暇制度

よかったらシェアしてね!
目次